「空ね…昔から青空がきらいでした。オレには明るすぎて。
でも、いいかなとも思う。
地平線をすれすれに抜けたあたりなんか見てると、胸の奥が少し、痛む」
「へえ?」
「アナタの眼に似てる」
「そんな不安定なものなの、俺の目は。
カカシ君にとっては手の届かない遠い存在なのか。弱ったなぁ」
「きれいだって褒めてるんです」
「そう? 霞むし、すぐ曇るじゃない。
晴れかと思えば雨も降る。血の朱に染まることもある」
「………」
「そのあと陽が落ちれば、真っ暗闇!」
羽のように軽いキスを、ひとつ。
「……だけど、先生。
昼間にも月は見えるし、星だってみえるでしょう。
オレたちの見てるこの向こうは宙だよ。
青を透かしていつだって、夜より深い闇をみているよ」
「よーくわかった。
そうだな、これからは……よいしょっと」
「!!」
「銀の月を浮かべようと思います。ん、いいね。悪くない」
「オレは月なんかじゃありません」
「じゃあ虹。夜の虹」
「夜に虹なんてありません」
「あるよ、ちゃんと。昼にも星があるのと一緒でね。見えないだけ。
稀に月の光でうっすらと架かるんだ」
「見たこと、あるんですか……?」
「一度だけ。うんと南の国でね。…見てみたい?」
「……ん…」
「いつか連れてってあげるよ」
綺麗なものは、すぐ傍に。
何よりも美しいと思うものは、此処に。
だから今夜は 俺の夜空で我慢して。